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Current Practices and Future Perspectives of Content and Language Integrated Learning (CLIL) in Japan

CLILは、次第に注目を集めています。本サイトは、笹島茂がかかわるCLILの実践やつぶやきを集めたものです。参考にしてください。

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2012年10月28日日曜日

CLILの事例2(オーストリア)

先日、ウイーンの教育大学(Pädagogische Hochschule Wien)でCLIL(英語)の研修を参観しました。ICTなどに携わる先生方がCLIL指導力をさらに高めるための現職教員研修です。20人程度の受講生がいくつかのモジュールを受講します。各学校で公務として認められている研修です。修了後はCLIL指導のお墨付きがもらえるということです。


まず、受講者の英語力がCEFRでB2かC1程度で、ほぼ英語を使うことには問題がないというように判断できます。しかし、その英語力は「生徒に英語を教える力」ではありません。この点が、CLIL研修のポイントとなっていました。この点についは、ここでは省略しますが、とても参考になる研修会でした。

参加者は、強制されて来ている訳ではなく、また、受講することで給料があがる訳でもないそうです。ちょっとこの辺りはもう少し調査する必要がありますが、自分の力量をあげるためであり、キャリアのためもあるようです。みなさん熱心です。その背景には、ICTなどを教える上で英語指導の必要性を痛感して、参加しているようです。生徒は英語が必要だ、そのためには、自分もCLILを指導してみようということのようです。この背景には、オーストリアの教育制度が背景にあることは言うまでもありませんが、私はその全体像を把握していないのでここでは言及を避けておきます。

ウイーン教育大学では、義務教育の教員養成を行なっています。その中に、もちろんCLILも教えられています。全体のシステムがどのようになっているのかは、勉強不足で正確には理解していませんが、基本的には、教師として二つの科目を教えられることが義務づけられているということが、CLILなどの普及に貢献していると考えられます。また、英語が必要であり、そのための英語を、CLILとは言わないまでも、様々な科目指導を通して、学校の中で使うという指導が行なわれています。ある程度、教師の裁量にまかされている点があるので、どの程度行なわれているかはよく分かりません。

しかし、この点は、オランダなどとはちょっと違います。オランダは英語がかなり優先される言語で仕事上必要な言語となっていますが、オーストリアはドイツ語を優先していますから、ドイツ語がまず第1でその次が英語という感じでしょうか。しかし、ドイツ語と英語は言語的にも近いのであまり違和感はないようです。このあたりももう少し説明が必要かもしれません。日本も同様で、日本語が強いので、生活言語は日本語が圧倒的に大切ですが、英語と日本語はかなり違います。やはり、言語文化の事情は考慮しなければいけません。CLILを推進する場合はこの点を慎重に考える必要がありそうです。

オーストリアでも、小学校から英語教育は盛んになっています。小学校は4年ですが、1年生から英語を指導しています。それとは別に、すでに述べたとおり、英語を使う環境を提供しています。その背景には、CEFRが大きな役割を果たしています。日本から見ると、この枠組みがわかりにくいようです。CLILは、CEFRを基盤とした一つの大きな歯車です。また、多言語多文化、複言語主義(plurilingualism)が大きく影響しています。オーストリアでも、その理念を推進していると言ってよいでしょう。これも、相当にきちんと説明する必要がありますが、省略します。

オーストリアのCLILは、フィンランドのCLILとは推進の質が違いますが、CLILということばを使わなくても浸透している点では似ているかもしれません。ボローニャプロセスを実行するために、オーストリアの教員養成も変わるそうです。教師の質を高めようとしています。そのためには、言語は欠かせない「ツール」です。教師が一つの言語を通して教えると言うよりは、ドイツ語と英語という言語を基本として、さらに、その他のヨーロッパ言語を使って、教えるというような意識があるようです。さらには、一つの科目だけを教えるのではなく、科目間という考え方が主流です。

いくつかの科目を教えるというニーズは、オーストリアだけではなく、ヨーロッパ全体に言えることのようです。言語であれば英語とその他の外国語というのは当然のようになってきています。また、理科や数学などの科目を教えている人は、英語がある程度できる人が多くなっていますから、また、すでにバイリンガルの人もいるので、そのような人がCLILに興味を持つのは当然かもしれません。

日本でも、実は、英語のできる教師は増えています。しかし、英語の教師に遠慮しているという状況があるような気がします。逆に言うと、文法や発音などが正確に教えられないと英語を教えてはいけないような雰囲気もあるように思います(個人的な感想で根拠はありません)。それと較べると、英語やその他の言語を使うという考え方が、学習するということ、正確な知識を優先するということ、学校で科目として学ぶということと違い、優先されているように思います。

そこに、CLILが入り込んでいます。ある科目を教える人が、英語を使って教えてみる、という考え方の根底には、そのような実用性の尊重の考え方があるようです。しかし、当然ながら、CLILは、「科目とことばを統合した学習」のことですから、その点についてもっと知りたい、もっと深めたい、という考え方をする教師が多少いるということでしょう。

研修の様子の講師の先生、Dr Teresa Ting先生の講習内容は、Cognitionを大切していました。受講者が自分で言語を学ぶということはどういうことなのかを気づいてもらうようなアプローチです。先生の意図は、受講している先生にはどの程度伝わっているかは分かりませんでしたが、「教える」ことの意識を変える可能性があることが感じられました。講習会の中では、そのあたりの議論もありました。

また、オーストリアでのCLILについて印象的は点は、バイリンガルということです。ドイツ語と英語の両言語を使うということです。この二つの言語をどう使うかということが課題ですが、必ずしも「英語だけを使って教える」ということではないことがよく分かります。さらに、「科目を教えながら、英語をどう指導するのか」という点が、やはり大きな課題であることも分かりました。英語の教師にとっても、このあたりはもう少ししっかりと考えたほうがよいと思いました。